自治体におけるプロスポーツと地域経済について

2019年3月21日 本日も北海道日本ハムファイターズのファームの試合が開催され、祝日ということもあり、多くの来場者で賑わっていました。鎌ヶ谷市にとってはなくてはならない存在の鎌ヶ谷スタジアムです。いかに鎌ヶ谷市は北海道日本ハムファイターズとの連携においてまちづくりを進めていくのかという視点で私の私見を述べたいと思います。少し長いですが、ご一読していただければと思います。千葉県鎌ヶ谷市議会議員 松澤武人
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はじめに
自治体の行財政運営はリーマンショック後の経済危機状況に加え、交付金に頼らない独自の自治体運営を促す三位一体の改革等により、厳しい状況におかれた時期があった。
自治体は行財政改革を進め、自治体財政の健全化に一定の成果をあげてきたが、人口減少・少子高齢化という日本全体が直面する大きな課題に直面している。
人口減少や少子高齢化は地域経済の縮小から商工業者の減少や行政の税収を縮小させるといった影響があり、さらには公共施設や道路等の行政サービスの低下など、様々な面で生活の利便性を低下させる要因となる。また、利便性以外の面においても、地域のコミュニティの縮小から地域の行事が途絶える等、まちの活気も低下する恐れがある。
人口減少対策として、政府と地方自治体が一体となり、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生の推進、いわゆる「地方創生」に努めている。鎌ケ谷市においても人口減少傾向にあり、人口減少や少子高齢化を克服すために「街の魅力」を高め、住民の生活の利便性やまちの活気を維持・向上していく取り組みが必要と考える。自治体が実施しているシティプロモーションは定住人口や交流人口の増加を目指す取組の一つであり、まちづくりにおいても重要な施策である。
鎌ケ谷市には全国で12チームしかないプロ野球球団「北海道日本ハムファイターズ」のファーム球場が立地しており、地域意識を高揚させるとともに、経済効果も生み出している。鎌ケ谷市の実例を紹介しながら、自治体におけるプロスポーツと地域経済について考察するものである。

 

1鎌ケ谷市の概要および位置
鎌ケ谷市は千葉県の北西部にあり、船橋市、松戸市、市川市、柏市に囲まれた総面積約21平方キロメートル、人口約11万人の都市である。市内には東武野田線・新京成電鉄・北総鉄道・成田スカイアクセスの鉄道4線の交通網があり、都心から25キロメートル圏内にあることから、首都圏の住宅都市として発展してきた。また、住宅都市として発展しながらも、豊かな農地や緑の環境をもち、梨の産地としても有名である。北海道日本ハムファイターズのファーム球場は梨畑に囲まれた鎌ケ谷市の南部に位置している。

 

鎌ケ谷市の財政構造について
鎌ケ谷市は市域が小さく、大規模な面積を必要とする工業団地等もない。また、首都圏の住宅都市として発展してきたため、法人市民税や固定資産税が少ない傾向にある。   
鎌ケ谷市と県内各市と市民税の比較をしてみると、平成27年度決算状況での市民税一人あたりの換算は鎌ケ谷市121,169円に対し、県内36市の平均は141,287円である。人口に占める所得割の納税義務者数の割合が低く、低所得者の納税義務者の比率が大きいことが、市民税の税収が伸び悩む要因と推察される。また、法人市民税の一人あたりの換算は鎌ケ谷市6,311円に対し、県内36市の平均は9,492円である。そして、固定資産税一人あたりの換算は鎌ケ谷市40,127円に対し、県内36市中34位の40,127円で36市平均の61,853円を大きく下回っている。鎌ケ谷市が住宅都市として発展を遂げてきたため、事業所が少ないことや、一般的な規模の住宅用地の場合には、事業所と比較すると、固定資産税の評価額を6分の1にする軽減措置があることも要因と推察される。(平成27年決算状況より)

 

鎌ケ谷市の必要な施策について
鎌ケ谷市では少子高齢化と人口減少を克服するため、市民の生活の利便性やまちの活気を維持・向上していく取り組みが必要となっており、「鎌ケ谷市創生総合戦略」を策定し、「地方創生」に取り組んでいる。また、「観光ビジョン」「企業誘致計画」等、鎌ケ谷市の魅力を伝えるシティプロモーションを策定し、実施している。


 

2プロスポーツについて
公共におけるスポーツ施策について
昭和36年に制定された「スポーツ振興法」は、制定から50年が経過し、スポーツが広く国民に浸透してきた。昨今、スポーツを行う目的が多様化するとともに、地域におけるスポーツクラブの成長やプロスポーツの発展、スポーツによる国際交流の活発化など、スポーツをめぐる状況は大きく変化しており、状況を踏まえ、スポーツの推進のための基本的な法律として、議員立法により「スポーツ基本法」が成立した。
スポーツ基本法は平成23年6月24日に公布、平成23年8月24日に施行された。スポーツに関し、基本理念を定め、国や地方公共団体の責務・スポーツ団体の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めることにより、スポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進し、国民の心身の健全な発達、明るく豊かな国民生活の形成等に寄与することを目的としている。

 

3鎌ケ谷市の取組 成果と課題
1.北海道日本ハムファイターズのファーム球場誘致について
日本ハムは昭和49年シーズンからプロ野球に参入しているが、最大の懸念は2軍施設の充実であった。長くファーム球場として使用してきた「多摩川グラウンド(川崎市)」は河川敷球場で水はけが悪く、風も難敵であり、川崎市中原区にあった寮及び室内練習場も手狭で、移転候補地探しが水面下で進んでいた。
鎌ケ谷市は平成3年、市制20周年を記念し「生涯スポーツ都市」を宣言し、さらに2年後の平成5年に奨励措置を設けて民間のスポーツ施設を誘致する「スポーツ施設誘致条例」を制定した。翌年の平成6年に日本ハム側の申請を受け、市の誘致委員会で審議を経て、奨励施設と指定され、移転が決まった。その後、平成9年にファイターズスタジアム、室内練習場、勇翔寮が完成し、オープンした。

 

2.鎌ケ谷市のプロスポーツを活用した施策について
鎌ケ谷市が制定した「スポーツ施設誘致条例」により、平成9年度から13年度までの奨励金 3億8400万円と施設建設補助金として、総事業費106億円のうち建設に要する経費約53億円の10分の1の5億円が支出された。
現在では地域活性化及び魅力づくり推進を図る目的として一般財源から支出されている。平成28年度鎌ケ谷市一般会計では、北海道日本ハムファイターズ関連の予算として、鎌ケ谷スタジアム大型ビジョン によるPR活動 76 万円、ファイターズ鎌ケ谷友の会負担金244万円、鎌ケ谷ランフェスタ負担金100万円、手形製作委託40万円といった項目が予算化されている。

 

4プロスポーツによる地方財政と地域経済への影響
地方財政・地域経済への影響
プロスポーツは多数の観客が見込むことができる「みるスポーツ」であり、地域の活性化や域内経済へ影響をもたらしている。
  1. 球団関係者からの直接の納税
北海道日本ハムファイターズは北海道札幌市に登録しており、法人市民税は無い。しかし、スタジアムや選手寮の土地・建物における固定資産税と住民登録している若手選手の住民税が課税対象であり、平成24年度までに約13億5000万円の納税がされている。

 

  1. 施設整備費
鎌ケ谷市は奨励金3億8400万円と施設建設補助金5億円が支出しているが、スタジアム 及び練習施設関連の総事業費は約106億円であり、施設の建設費や改修費は公共的な経済波及効果がある。

 

  1. 球団運営費
スタジアムの運営には多くのスタッフが関わっている。例えば2軍の監督やコーチ等のチーム関係者、スタジアムを運営する球団関係者や学生のアルバイト等が挙げられる。また、スタジアム広告の企業スポンサー等、スタジアムを運営することによって経済波及効果がある。

 

  1. 観戦客消費
試合観戦には多くの観客が地域外からも訪れ、入場料や食事、グッズの購入等、スタジアム内外における消費が挙げられる。
                      
  1. 間接効果
球団及びスタジアムにおける直接効果が域内の企業や産業に波及していくことで生み出される売上。例えば、鎌ケ谷スタジアムに来場した観客が産品を購入することで生み出される経済効果等。

 

  1. 間接的納税
間接効果による経済循環から生ずる域内企業の税金。例えば、来場者を輸送する鉄道会社やバス会社、タクシー会社、スタジアムに納品する企業等から生まれる市民税が挙げられる。

 

  1. パブリシティ効果
テレビ・新聞、ネット等、メディアによる露出効果を把握するため、取り上げられた時間や掲載の面積を調査したうえで、広告料金単価を乗じて、広告としてどの程度の効果があったかを算出するもの
 
5広告換算値という考え方
パブリシティとはマーケティングにおけるPR活動のひとつであり、テレビ・新聞、ネット等、メディアによる露出効果を把握するため、取り上げられた時間や掲載の面積を調査したうえで、広告料金単価を乗じて、広告としてどの程度の効果があったかを算出するものである。広告とは違い、メディア側から発信される情報は客観的なため信頼性が増し、多くの人が目にすることになり、パブリシティの効果として、とても大きなものとなる。また「マスコミに認められた」という証しでもあり、認知度アップとブランド力の向上にもつながる。
平成23年に入団した斎藤佑樹選手のメディア露出においては、入寮日から16日の入団記念式典までの6日間で「16時間53分25秒/148番組」の露出があり、鎌ケ谷市のパブリシティとして160億5541万円相当の効果があったと換算された。さらに、大谷翔平選手によるメディア露出が増加しており、鎌ケ谷市のパブリシティ効果も継続していることが窺える。
 
6プロスポーツによる地域活性化の効果について
 
集客交流(スポーツツーリズム)効果
ホームゲームだけでなくアウェー戦も観戦することにより交流人口が増える。また地元は飲食、宿泊、交通費などの地域外からの収入が得られるだけでなく、地域のチームが強ければブランド力による更なる集客が見込める。
 
地域コミュニティの醸成効果(語るスポーツとしての認知)
地域住民が一つのチームを応援することによるコミュニティ再生が可能となる。
 
地域アイデンティティの確立効果
チームが強ければ、地域の象徴・誇りとして機能する。
 
地域ブランドの向上・地元の「広告塔」「公共財」としての情報発信効果
チームそのものが地域の求心力となることに加えて、試合会場の一角で地域の特産品等を販売することで地域資源のPRも可能である。
 
商工業の活性化効果
商店街等における集客効果、スポンサー・地元金融機関との連携等様々な形がある。
 
7今後の取組について
  1. 課題について
プロスポーツチームがより良い環境を求めて本拠地を移転することが見受けられる。福岡ソフトバンクホークスは平成28年にファーム球場を筑後市へ移転した。福岡のみならず佐賀、熊本などを含む5県34市町村が立候補していたが、筑後市、福岡市(アイランドシティ)、北九州市(大里公園)、宮若市(工場跡)の最終候補自治体の中から筑後市が選ばれた。都市間の誘致合戦も厳しく、市場原理の観点から、企業の撤退も考慮しなければならない課題の一つである。
 
  1. 今後の方向性について
プロスポーツが雇用創出や納税を通じて地域社会に貢献しているのと同時に、地域住民に対し、地域コミュニティの形成や地域連帯感の向上、地域への誇りやアイデンティティの醸成を生んでおり、プロスポーツがもたらす効果は絶大である。プロスポーツチームが本拠地とするそれぞれの自治体において、地域密着活動を行うことで、企業でもあるチームの持続可能な健全運営が可能と推察される。
北海道日本ハムファイターズが行う地域密着型の活動は、野球というスポーツを通じて活気あるまちづくりに貢献する一方で、将来の一軍の札幌で活躍する選手を育成するという次世代のチーム力の強化と、球団運営に大切なファンを増やしていくという活動にも繋がっており、選手育成のためのファーム(2軍)の充実が球団運営の重要なテーマと考える。
 
考察
人口減少や少子高齢化といった社会情勢、それに伴う財政構造の変化は自治体運営をさらに厳しい状況にさせている。昨今、日本全国の自治体がそれぞれの特徴を活かしたまちづくりを進めているいるのが「地方創生」であり、「人口ビジョン」を策定し、人口減少対策に努めている。定住人口・交流人口の増加を目指すためには、街の特徴や地域資源を内外に発信することが必要である。それによって、「街の魅力」を感じ、街への愛着や好感を持つことにつながると考える。現在も自治体はシティプロモーションに努めているが、テレビ・新聞、ネット等、メディアを通じて報道されるパブリシティを最大限に活用し、情報発信力の更なるシティプロモーションの強化を図ることが必要である。
鎌ケ谷市には全国で12チームしかないプロ野球球団「北海道日本ハムファイターズ」のファーム球場が立地している。様々なプロスポーツがある中で、多数の観客が見込むことができる「みるスポーツ」であり、地域の活性化や域内経済へ影響をもたらしている。また、地域コミュニティの形成や地域連帯感の向上、地域への誇りやアイデンティティの醸成を生んでおり、「プロ野球」がもたらす効果は絶大であり、公共性が高いと推察される。鎌ケ谷市はファームとはいえ、プロ野球球団の立地を最大限活用することが必要であり、市内の児童生徒への野球指導ができるセカンドキャリアの人材活用といった教育分野や、球団とのパイプ役を担う市民活動分野や商工振興分野等、プロ野球を引退した選手のセカンドキャリアを支援・活用する施策の検討が必要と考える。
スポーツということで鎌ケ谷市役所では生涯学習部の文化・スポーツ課が窓口となっているが、スポーツ振興という面だけでなく、スポーツツーリズムという観点では商工振興や企画政策、健康という観点では福祉政策である。様々な角度からプロスポーツチームとの連携が重要であり、ワンストップ窓口機能を有する官民一体型の専門組織であるスポーツコミッションの存在も必要と考える。スポーツを通じた地域活性化には鎌ケ谷市の地元プロスポーツチームである「北海道日本ハムファイターズ」の地域密着活動が欠かせない。市は球団との連携・協働をさらに強化し、鎌ケ谷のまちづくりに取組むことが重要である。
 
おわりに(結論)
「北海道日本ハムファイターズのファーム」が鎌ケ谷市に移転して20年が経つ。ファームとはいえ、プロ野球球団を誘致した24年前の取組は現在のまちづくりの中心であると言っても過言ではない。何気なくスポーツニュースやネットニュースを見ても、「鎌ケ谷スタジアム」がメディアに登場しており、パブリシティ効果を得ている。プロ野球球団は一企業ではあるが、地域コミュニティの形成や地域連帯感の向上、地域への誇りやアイデンティティの醸成を生んでいる。また、地域の活性化や域内経済へ影響をもたらしており、公共性の高さが推察される。今後も北海道日本ハムファイターズのとの連携、他団体との連携を通じて、鎌ケ谷市のスポーツ振興、地域活性化に取り組んでいくべきと考える。

このブログ記事について

このページは、松沢たけひとが2019年3月21日 18:50に書いたブログ記事です。

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